はじめに(東條恵医師)
第一部 「共生型グループホーム ― 住み慣れたところで人と人とが支え合い、自分らしい暮らしをする」( 田中総一郎医師)
第二部 「プラダー・ヴィリー症候群におけるトータルケア」(長谷川知子医師)
ごあいさつ(庄司英子)
はじめに(東條恵医師)
今回の企画は、昨年スウェーデン・英国のプラダーウィリー症候群(PWS)青年期の生活の場としてのグループホームなどの視察旅行の報告会に引き続いての企画でした。PWS者は適切な環境を整備することで、肥満、情緒不安定、糖尿病などの問題を軽減することができることを、これらの国の経験は示していると確信を得ることができた旅でありました。適切な環境とは、3つにまとめられると昨年9月の報告会で話されたものです。第一は生活環境としてのGHであり、第二は食事管理であり、第三はケアメニューの問題です。第一の生活環境では、親元を青年期に離れることが自然の流れである英国・スウェーデンにあって、GHそして三十人弱の中型生活施設での生活の組み立ては、仲間との励まし合い、スタッフからの援助のもと大筋では成功していることを知りました。第二の食事管理では、スウェーデンでは1000キロカロリー、英国ではもう少し多いのですが、調理方法では「煮る」「ボイル」することを主体にし、油を使わないとか、砂糖を使わないとかの工夫で、コントロールをしていることを学びました。第三のケアメニューでは日本的な作業ではなく、生活を有意義に豊かにするための様々なメニュー・日常活動に取り組んでいることを学びました。これらはまだ日本にはない取り組みと思います。
では日本で、新潟で、今後どの様な可能性があるかを知りたいと考えるのは自然な流れでしょう。グループホーム(GH)はここ新潟でも増加しています。全県で100弱と県のホームページを見るとあります。しかしまだまだ問題行動が多いとされるPWS者が適切な環境下で生活できている、十分なGHの数が用意されているとは言い難いでしょう。このような中で、実践として今回ユニークな取り組みをしている宮城県の流れを知りたいと考え、ユニークな企画を考えたメンバーのお一人である田中総一郎先生に仙台から来て頂き、お話しをお聞きすることにしました。重症児、高齢者、知的障がい者が、共に一つのGHで生活する試みです。宮城県では複数のこのようなGHが動いているとのことです。様々な人々が集うGHと言う生活空間はより自然であろうと言えます。障がい別にGHを作る流れへの一つの提言になっていると考えるのです。またPWSの問題点を再度整理する意味で、PWSへの支援を熱心に行っておられる長谷川知子先生をお呼びすることになりました。
本来このような保護者主体の団体の活動では医療者は黒子であり、下から支える部隊に位置づけられると思います。この間の流れもあり、今回は医療者主体の報告会・勉強会となりました。今後保護者の方々より新潟県でのGHの活動報告ができる日を夢見ています。
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第一部 「共生型グループホーム − 住み慣れたところで人と人とが支え合い、自分らしい暮らしをする」(田中総一郎医師)
医師としてよりも、友人・サポーターとしてお話したいと思います。これまでは高齢者、精神障害者、知的障害者はそれぞれ障害者種別のグループホームでしたが、一緒にすることによってさまざまな関わりが持てるようになりました。平成14年度に始まった「プロジェクト※M」は、職員の自主的なグループが発案したプロジェクトのうち、特に優秀なものを、財源と人事の面で支援し、発案者に事業化してもらうという制度です。
「共生型グループホーム」は平成14年度の最優秀プロジェクトに選ばれた「プロジェクトM」第一号の事業であります。重度の障害児(者)が地域で安全に暮らせるためのグループホームを設立し、人や家族の中で生きていくには、これらは医療と福祉と保健が力を合わせれば可能になるのではないかと思いました。
- 家族で一緒に暮らしたい
- いろんな世代、支えあう笑顔
- 人は人の中で生きて人になる
- 障害があるといっても、「生まれてこなかったほうが良かった」ほどの不幸ではなく「楽しみあい、生きあう」相手を見出せないことが不幸なのです。(あるダウン症の方のお父さま)
※プロジェクトM=宮城
●「プロジェクトM」に込めたねがい
- 住み慣れたところで
- 人と人の楽しみあい、生きあいを大切に
- 自分らしい暮らしをする
- 医療的ケアがあっても
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●医療と福祉行政のコラボレーション
- ともに生き、手を貸してくれる人がいて=福祉
- 医療がその場で提供されれば=医療
どんなに障害が重くても、地域で自立できるのである。医療と福祉が協力し合うことで可能になる。障害者の「自分らしい生活」がある。(ノーマライゼーション 理念)
「生活」(管理)→「暮らし」(温かみ)へ
●宮城県白石市の共生型グループホーム「ながさか」
30代の重度知的障害(1.2名)、30〜50代の中軽度知的障害(3名)、70〜80代の高齢者(5〜8名)が家族のような暮らしをしています。
- 中軽度の方は作業所へ、重度の人は通所施設へ。お年寄りの方が毎朝送り出し、夕方迎えるという家庭内での父母や祖父母の「役割」を得ています。
- 障害のある方にとっては毎朝、同じ人が送り出し、出迎えてくれるという「安心感」につながっています。
- 昼間は、お年寄りの方が、献立を考えたり買い物へいったり、ゆったり過ごしています
- 障害のある人たちの帰宅後、みんなで夕食の準備をする。重度の人も味見で参加をしています。
- 家族のようにみんなで夕食を食べます。
- 認知症のおばあちゃんが(自分の子どものように思っていて)重度の人の世話をしています。反対に重度の人が徘徊しそうになったおばあちゃんを引き止めてお互いに助け合っています。
- 入浴を嫌がっていたおばあちゃんを知的障害の子が誘うとすんなりいくようです。
- 共生型グループホームの暮らしは「特別なこと」ではありません。このように家庭的な雰囲気で世代間の交流ができるようです。
- 今の制度では親子が介護保険と支援費を両方使って、入所することができません。
- 若い18〜20歳の方のグループホームでは高齢者の世話に行くことで、自分たちが役に立っているという自信を持ち、生きることができています。
- その人の特性を知って、歩調を合わせていくことが大事であると思います。
- いのちがいのちを支えています。
- 絵本「いのちは見えるよ」 田中医師とセミナースタッフ(母親)2名で心を込めて絵本を読みました。(田中先生の語り口の温かさとおもいが溢れるナレーション、そしてスタッフとの息のあった読み方が「いのち」を伝え会場を温かく包んでくれました)
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●「いのちの授業」を通して手どもたちに伝えたかったこと
小学校で、1年生55人と2年生63人の子どもたちに、「いのちの大切さ」を主題にした授業を行う機会を得ました。人の生き死にの場面に接することの多い医師、ということで依頼を受けました。
死ぬとはどういうことなんだろう。死んだらどうなるんだろう。家族やペットの死を経験した子どもたちが、その失われたいのち=死に向き合い理解するプロセスを経て、「いのちの大切さ」に思い至る。死について学ぶこと(デス・エデュケーション)は、限りあるいのちをいかに喜び多く、絆深く生きるかという問いかけに回帰するのではないかと思います。
そこで、子どもたちが家族の愛情をいっぱい受けて生まれてきたのだということ、「いま生きている」ことを、子どもたち自身が体全体で実感すること、そして、いのちの大切さを自分や友達の体の中に感じ取る、そんな授業にしたいと考えました。
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◆聴診器でお互いの心音を聴く
授業は、聴診器でお互いの心音を聴くことから始めました。ふたりの子どものペアーにひとつずつの聴診器を準備して、耳への当て方、心臓の位置、心拍の速さを説明しました。
子どもたちは、医師の持ち物である聴診器に初めは興奮し一時はたいへんな騒ぎになってしまいましたが、そのうち、自分や友達のいのちの律動ともいえる心音に聴き入る姿が見られるようになりました。
◆エコー写暮で見る生まれたばかりの赤ちゃん
次に、お母さんのおなかの中でしだいに大きくなっていく胎児の様子を、エコー写真と実際の写真で紹介しました。胎児の写真をみて騒いでいた子どもたちも、生まれたばかりの赤ちやんの写真は神妙な顔つきで見ていました。その理由は、自分が生まれたときのことを家族に訊いてくる、次のような宿題を2週間前に出しておいたからなのです。
→子どもたちへの宿題
- 「きみが生まれてきたとき・・・初めてきみを抱っこしたときのお父さん、お母さんの気持を訊いてきて」
→生まれてきてくれてありがとう、やわらかくてかわいい、なんて大きな声でしょう、やっと会えたね、はやく大きくなあれ、ちっちやいなあ
- 「いま、赤ちやんのときのようにお父さん、お母さんに抱っこされてみて…。そのとき、きみはどんな気持ちがした?」
→気持ちよかった、あったかかった、お空が近かった、生まれ変わった気持ち、ちょっとはずかしい、お母さんのにおいがした
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◆いのちを大切にするということは・・・
「生まれてきてくれてありがとう」という言葉、自分が生まれてきたとき家族のみんなが喜んだこと、そして、実際に抱っこされたとき感じた気持ち良さ。自分は「愛されている」存在である(自己肯定感)こと、隣の子も同様に愛されている大切な存在であること。いのちを大切にするということは、いま、目の前にいる人と自分を大切にすることである、ということを子どもたちは体で感じ学ぶことができました。
◆障害のある子どもも、共に育ち、共に生きる
授業には、障害のある6歳の女の子も参加しました。給食の時間になって、女の子は胃瘻から栄養をはじめます。子どもたちは、初めて見る医療的ケアに驚いて「おなかに穴あけて破裂しないの?」という率直な質問をしたあと、女の子の髪飾りをみて「かわいい」と触れ合う様子を見ることができました。「しやべらない胃瘻の変な子」ではなく、ともに過ごすことが楽しい相手だったことが、私にはとてもうれしかったのです。
平成16年12月に出された宮城県障害児教育将来構想では、「障害の有無によらず、全ての子どもが地域の学校で共に学ぶ教育を展開する」とあります。いま、女の子も地域の普通学級で学んでいます。女の子の同級生たちが大人になったとき、この子たちはどんな社会を築いていくのでしょうか、そのときを楽しみに待ちましょう。
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●「いのちの授業」の紹介
全国で「いのちの授業」を行っていらっしゃる先生を紹介します。
金森俊朗先生:食材としてのニワトリを、子どもたち自身で屠蓄・解体・料理するなどの経験を通して、「生きている自分」の他に「生かされている存在としての自分」に気付きます。
大瀬敏昭先生:末期がんである自らの身体を示して授業を行い、「死を語ることで生きることの意味、いのちの重みを伝えたい」と話してくださいました。そして、このように続けられます。「よく学校で見かける『明るく元気』という標語、これに立脚した強さを求める教育に最後までついていける子どもはいったい何人いるだろうか、弱さを自覚したこども達と自分の無力さを自覚した教師とが『ケアと癒し』を含みこんだ応答的な営みを行う、ともに育つ場として学校を再構築する必要があるのです。」
●これからの医療のあり方
これは、医療現場でも同じことが言えるのではないかと思います。患者は指導・教育の対象であり、医療は患者に与えるもの、というこれまでの医療と患者の上下関係から、サポート・支援という対等で双方向な関係への変換。そして、障害のある子どもやその家族と、その生活を見守る医療者とが、人と人として寄り添う間柄を大切にして育てる場として、病院を再構築する必要があります。
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●「生まれてきてくれてありがとう」は子どもに生きる力を与えてくれる
「生まれてきてくれてありがとう」は、親から子どもへ生きる力を与えてくれる、とても大切な言葉です。残念ながら、それが簡単にできない状況があります。たとえば、染色体異常を想わせるような奇形のある出生直後の赤ちゃんをショックがないようにと分娩を終えたばかりの母親から遠ざける医療者の配慮。しかし、日が経つにつれ母親は不安を覚え、「私は社会に隠さなければならない恥ずかしい子を産んでしまった」と自責に苦しむといいます。
生まれて最初に出会う社会である病院は、そのような子どもと家族に診断を与えることを使命としてきました。そのために「生まれてきてくれてありがとう」の言葉をわが子に言えない苦しみと悲しみを与えてきたのではないでしょうか。もしそうだとしたら、われわれ医療者は考え直さなければならないのだと思います。診断や評価はもとより人の一部分についてのこと、たとえ障害をもって生まれてきても祝福できる社会と医療者でなければならないと考えます。
人は診断や評価の対象ではない、人は愛される対象である
●質疑
(ダウン症の父)重度の人がいると夜間の医療体制が必要ではないか。制度にないと大変では?
(田中医師)これからの課題です。
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第二部 「プラダー・ヴィリー症候群におけるトータルケア」(長谷川知子医師)
まずPWSについて基本的なことを述べたいと思います。
- PWSをもっていても基本は普通の人、でもPWSの影響で特徴や症状が生じます。
- 診断をされていない人を含めると1万人にひとりくらいの割で生まれています。
- 肥満の傾向など、刻々と変化する多彩な症状があります。
- 症状の強弱や現れる時期はかなりの個人差があります。
- 普通に見られ、疾患として理解されにくいことが問題を大きくするようです。
- 発達の遅れよりも発達のアンバランスが問題につながるようです。
- 一つの疾患ですが起因はさまざまで単純ではないのです。
- アンジェルマン症候群と共に遺伝子刷り込み現象の発症への関与がわかりました。
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理解するためにはPWSの影響を知る必要があります。そのためまずは、次のようなことを考えてみましょう。
- PWSの人達は私達とどこが違っているのでしょうか。PWSの影響だけでなく、私達にも多かれ少なかれあるような面も影響しているかもしれません。
- 他人には「理解できないこと」があって当然です。PWSの人にも同じことが言えませんか。
- PWSの人達への対応で、彼らと同じやり方をして成果が上がるでしょうか。
- PWSの人達が納得できるやり方やスピードとはどのようなものでしょうか。
- PWSだけを見ずに、他の、対人関係が苦手な人と比べてみたらどうでしょうか。
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PWSにおける肥満は単純ではないのです。それにはたくさんの要因があります。
- 過食になりやすいこと。(その原因は、飽食中枢の神経細胞が少なく、嘔吐しにくく、認知・行動等に特徴があり、食べ物に強い関心があるが、関心の幅は狭く、それに固執しやすく、自我の発達が不完全で、自己コントロールが弱く、衝動的な傾向があり、几帳面で完全を求め、自己表現が苦手、自己中心的でほかの人との関係作りが下手、環境の変化やストレスに弱いことなど)。
- 成長ホルモンが少なく低身長の傾向があること。(それにより、摂取カロリーが過剰になりやすく、運動がほかの子に追いつかなかったり、ほかの子と遊びがしにくいこと)。
- 体組成の問題があること。(筋肉量が少ない特徴から、基礎代謝も低くなり、食べた物が脂肪に変換しやすく、運動量が少なくなり、食後の体温上昇が少ないことなど、)
- 運動量が少ないこと。(その原因は、低緊張があり筋肉少なく、太るとよけい動きにくくなり、経験不足が多くなるため動く自信を欠いてしまうこと、スタミナが不足していて、負けるとやりたくない傾向があり、効果が少ないと意欲が喪失してしまうことなど)
- 複数の要因があるため、カロリーだけを減らしても効果は上がらないでしょう。一つひとつの問題にきめ細かく対応する必要があります。そして、そのためには、チームワークでの支援が必要です。一人の専門家だけで対応するのは無謀とすら言えましょう。
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PWSにみられる多様な症状や問題に対するため、前任地の静岡県立こども病院で、平成8年にPWS包括グループ外来を始めました。それについてお話します。
この外来は、乳幼児が主で、月1回行い、スタッフは医師(長谷川)と外来看護師、管理栄養士が入りました。まず、PWSについて全くわからなかったので、ひたすら観察することにしました。最初の外来で、親ごさんたちが発する言葉のほとんどが3種類だけ(指示・命令の言葉、禁止の言葉、評価の言葉)であることに気づきました。これはきっと、何とか発達を伸ばそうという親心のあらわれでしょう。しかし、直感的に、年長のPWSの人達の問題はここに原点があると思ったので、親子の自然な関わりと親子遊びのために、おもちゃ図書館のボランティアさんにお願いして、親子でできるような遊び・リトミック・読み聞かせをすることになりました。それは今も、私が病院を辞めても続いていますが、親子の関係が安定すると行動の問題は減少していきました。食事についても、管理栄養士がPWSについて学び、親のグループ勉強会や個別相談を外来で行い、効果を上げました。親ごさんたちは正しいカロリー(エネルギー)の知識を得て、わが子に適切な食事を考え工夫することが難なくできるようになったと思います。
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PWSの子達の総合的な発達促進の例に音楽療法も試してみました。その3年間の経験についてお話します。
音楽療法の先生は、ご自身も知的障害ある子をおもちで、ダウン症や自閉症などの子どもや成人の音楽療法もされていて、疾患による特性をとてもよく理解してくださり、適切な関わりをしてくださいました。(「障害」という意味は、その人自身が障害なのではなく、その人の「何かが障害されて」いたり、「生きるのに障害になる何かを持っている」意味と思いますので、「障がい」とはしませんでした。生きやすくするために、どこが障害になるかを明確にする必要があると思いますし)この音楽療法は、最初、子どもどうしの相互コミュニケーションと、運動による肥満の防止という漠然とした目的で始めたのですが、それを超えた成果がありました(ルールを覚え、自信がつき、それによって子どもどうしの情緒的なソーシャルサポートが芽生え、楽器の操作を通して協調姿勢がみられるようになり、楽しみながら自然に体の動きが機敏になり、継続したことで体力も向上)。
さらに、PWSの子達との関わりから、音楽療法の先生は、彼らの特性が見えてきたそうで、次のように述べておられます。
「PWSの子達は気持が通じるのに時間がかかり、気持が通じても抑制が効かなくなるとコロッと変わるようだ。そして、この人は面白そうだと思うとアプローチしてくるけれど、段階を踏むことをしないので、過激ともいえる。子どもどうしの関わりは難しいようだが、成人でも仲介が入らないと孤立しやすい。自分たちだけでは問題を解決することは無理なようだ。
親に見てほしいという気持が強いが、親に強要されると萎縮し不機嫌になる。親が受け容れてくれると落ち着く。
彼らは非常に繊細な子ども達なので、親も「言っていいこと」「言ってはならないこと」を知る必要があると思う。彼らは、できるときにはごく普通なのだが、不安定になると手が出せなくなる。そのギャップが親にすら理解されにくいのではないか。
親も、問題ないときが普通の姿で、問題時は「特に何かがあったためだろう」と解釈しその行動がいつかは減っていくだろうと思いたい・・・でもそうはならないのだ。親が逃げ腰になると、子どもによけい不安をもたらす。
音楽療法も、頻回にやったほうが、子どもどうし関係が深まり、効果も上がるだろう。彼らは協調運動が苦手なので、体が自由にコントロールできるとストレスは減るようだ」
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親の不安が大きいと育児にも悪影響を及ぼします。不安を減らすために必要なことを考えてみましょう
「不安の方程式」というのがあります。「不安」は「リスク」を「資源」で割ったもの、という公式です。これは精神科で言われていますが、どんな場面でも適用できそうです。
病気や障害で「資源」というのは次のようなことを指します。
- 正しい知識
- 適正情報の選択
- 治療とケア
- 人々の理解と支え
- 自助・支援団体
- 社会の理解
- 各種社会資源
- その他
どんな人と巡り会ったか、というのも「資源」になります。
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時期別の対応について述べてみます。
乳幼児期〜学童初期の対応で留意することは
- 診断された時、病気だけ見ずに、子どもの健常部も一緒に見ましょう。
- 共に生活する人として、「普通の育児」は基本です。何にもまして大事なのは、愛情たっぷりに育てることです。
- 体力、感覚、意欲、豊かな心、社会性が育つ環境をつくってあげましょう。
- 「ゆっくり育つ子」なのでゆっくり対応してください。
- 安心・安定した親子関係が保てるような支援が必要です。
- かかりつけ医の定期診察を受け、合併症に注意することで、適切な治療ができ、生活の質も上げられます。
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PWSの人にとって思春期〜青年期の対応が重要な理由は
- 第二次性徴が遅延しますし、今後はGH終了後の問題も考える必要があります。
- 成人に達したところと幼いところとあり、バランスをとるのが難しくなります。
- 自分捜しの時期ですが、その作業は苦手で、援助が要ります。
- 現代っ子なので年令相応の情報を得ていることは多いものの、理解や対応のしかたはついていけません。
- 大人になりたい、でも一人では難しいので援助が要ります。
- 適切な態度や言葉で気持を表すのは苦手ですし、複雑になると対処できません。
- 自分や他の人、社会を認識する視野が狭く、見えない・読めない変化は不安をきたします。
- 知的障害により理解困難があるので、説明が理解できないことがあります。
- 親との関係が複雑になり互いに自立と依存の葛藤が始まりますが、PWSの人だけで解決するのは無理です。
- 誰もが安定性を欠く青年期を、PWSの人が生き抜くには多面的な援助が必要になります。
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これより、思春期〜成人期の対応で留意することは
- 一般の子にとっても乗り越えるには大変な時期、PWSの人にとってはそれ以上、ということをわかってください。
- 前思春期としての対応を8歳頃から考える必要があります。
- 大きな問題をおこしたときは大きな不安があることが考えられます。
- 安心・安定した親子関係が保てるような支援はどの年令でも必要です。
- 愛情をはっきり表現しなくてもわかってもらえると思わないでください。
- 自立を急がず、発達を煽らず、一つひとつ着実に関わっていくことです。
- PWSの特性を知り、理解し、受け容れたうえで適切な対応を考えましょう。
- 管理・隔離でなく「誘惑になる物からの保護」をして、人間尊重を忘れずに。
- 薬で「つらさを除く」ことも大事ですから、恐がらず適切に使用しましょう。
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PWSの人と家族への総合的なケアと援助のために
- きめ細かい包括医療を
→PWSの本人・家族支援には、親・家族とさまざまな立場の専門家によるチーム連携が「絶対」必要です。
- PWSについて理解するにはまず(温かい目で)観察を
→・最初、PWSのところだけに注目すると絶望感にとらわれます。一般の赤ちゃんと同じ面に目を向けるようにしてください。ごく普通の子育てが何より大切です。
→成長に伴って健常部が見えるようになってくると、PWSを忘れたいと思うのが親心でしょう。子どもの本当の姿が見えなくならないように、PWSの面も理解し、たっぷりの愛情と一般の子より少し多くの注意が育児に必要です。
→気になる面も、PWSの特性だ、いや個人の差違だと決めつけないで。その両方かもしれません。親からの遺伝子や生育環境の影響が、一般の人以上に強く及んでいることも考えられます。
→PWSの人は、一般の人にとっては「大したことのない」ストレスでも過剰に受けとり、イライラしやすくなります。
→PWSで最も問題なのは過食よりも認知や関係性の障害です。彼らの脳に入ってくる情報も、ところどころ穴があいていたり形が変わってしまったりしているようです。穴あきの情報は、脳のなかで、穴が消えたり、理屈で辻褄を合わせていたり、違う形に変わったりして解釈されているようですが、それを自覚していないので、元の正しい情報を知らされると、「それは違う」と頑強に抵抗します。
→PWSの特徴に、「社会性の障害」「コミュニケーションの質的障害」「イマジネーションの障害」があることからアスペルガーに似ていると言われますが、アスペルガー症候群と共通の特徴なのか、表面的に似ているだけなのか、また、違うところはどこかなど、詳しいことはまだわかっていません。それがわかると、理解や対応の方策も進むでしょう。
- PWSが理解しにくいことを知って対応を考えること
→一見どこにもいそうな子どもたちのため、親ですら理解が難しいようで、問題が見落とされやすく、受容がされにくいことも大きな問題です。
→年令が進んでも親が受容できない場合、その理由を軽視してはなりません。特に、最初の診断時の説明がショックだったり、親自身のもつ障害への否定的な見方(障害観)が心の底に澱んでいると受容しにくくなり、親子関係も阻害されます。子どもをありのまま見て受け容れることは易しいことではないので、それが滞っている場合は援助が必要になります。(これも支援団体の役目でしょう)
- 定期検診が症状の重度化を救う
→歯・眼・骨や関節、低身長、呼吸、気づきにくい傷などへの注意が必要ですが、いつ誰が診療してくれるかという情報は得にくいので、かかりつけ医から専門医に早めに紹介してもらうといいでしょう。それによって、かかりつけ医と専門医との連携もとれるので安心でしょう。
- 食事の摂り方は基本的なことから
→食事を、制限、禁止、こうすべき、としては逆効果になります。一人ひとりに必要な食事は違うので、それをふまえて、楽しい食生活を考えることです。家庭の食事が高カロリーでなく、間食もほとんどなく、あっても買い置きのお菓子などでなく、さらにPWSの人が充分に運動している場合は、皆と同じで問題ないでしょう。PWS以外の人にも健康な食事は大切です。
→肥満が進んできている場合は、体重を増やさないようなカロリーにする必要があります。カロリーの少ない食品として、こんにゃく・海草・きのこの「三種の神器」を使っている親ごさんはかなりおられます。
→園や学校での配慮をお願いしたほうがいいこともあります。その際、他の人より少ない食事で不満をいだかせてはなりません。PWSの人の食事を、アトピーや腎疾患など特別食の必要な子と一緒に、先に名前を呼んで渡し、次に皆のを配るという心遣いをしているところもあります。減らす代わりに家から一品持ってきていい、という学校もあります。どうしても減らせない場合も諦めないで。朝夕の家庭の食事で調整している方も大勢おられます。
- 問題と考えられる行動を起こしたとき丁寧な対処が大事
→すべてを問題行動と見ては生きづらくなるだけです。どういう行動が問題で、どこまでがユニークで面白い行動か、親ごさんどうし話し合って、ある程度決めておいてはどうでしょう。
→よくない行動に対し、問いつめても防衛反応が見られるだけですし、何でいけないか理解がしにくいこともあり、叱られることの恐怖だけになってしまうことがよくあります。原因はPWSの障害にあるので、すぐに叱らないよう、大人がトレーニングする必要があります。叱らなければかえって事実を話すでしょう。その気持に共感を示しながらも、いけないことについては毅然とした態度で臨むことです。
→理由はあまり説明しないほうがいいでしょう。彼らは理屈で迫ってくることも多いのですが、理由はともあれ、ルール違反、非社会的行動は絶対してはならないので、繰り返し教え込むことです。同じ言葉、同じ絵を用いて繰り返し言わないと、理解しにくいかもしれません。
→彼らが知的に障害されていることを忘れないでください。それは「理解が一般の子より難しく、時間がかかる」、という意味なのですから。
→「次はもうしないように」と言うとき、約束はしないほうがいいでしょう。
おこした問題はPWSの特殊な認知から来たものであるため、約束は破られやすいことを知ってください。破られたら約束の意味がなくなってしまいますし、また、それが自信喪失につながってしまうおそれもあります。
- 家庭での運動は一生必要なものとして
→家族で楽しく工夫できる PT指導を、歩きやすいように靴の補正も考えて。
→協調運動、体のコントロールができるようになれば、ストレスも減るように思えます。逆に、身体が自由に動かないとストレスが溜まるでしょう。
- 本やインターネットだけで育てないで
→本もインターネットも使い方次第ですが、同じ診断名でも一人ひとり違いますし、時と場によっても変わりうるので、その人・その場で方策を立てることが必要です。
- ひとりで悩まないで
→親ごさんで人と関わるのが苦手という方もおられるでしょうが、でも、ひとりで悩んで何もいいことはありません。理解してもらえる人を見つけて話を聞いてもらうことです。親のストレスを減らすことはとても大事です。
→自分だけでなく皆同じ気持ちであるとわかって安堵できるための関わりが、支援組織の役割として何よりもまず必要でしょう。
- 味方を増やそう
→理解されないと嘆くよりも、理解されるような方策を練りましょう。そのために関係者が考え、話し合うことは必要です。
→福祉や特別支援教育の基礎的なことを学んでおくことは、社会参加に役立ちます。逆に、それを知らないと、我が子のために何をしたらいいかわからないでしょう。
- 状況が変化しやすい難しさに対処できるように
→時期や年齢による心身の様子やエピソードをメモしておくと、少しの変化でも見えてくるので、早めの対処ができるでしょう。(ブログは選択された記述・情報発信になりますので、この目的にはあまり役立たないかもしれません)
- 本人と信頼関係を築くことを
→まず愛情と理解を。気持を汲み、人格を尊重していることも言葉にして言わないと、感じとるのは難しいかもしれません。彼らがひとの心を読みとりにくいことを忘れてはなりません。心がつながっていると思っていたら、実は不信感や被害者意識をいだいていた、ということもよくあります。
- 説明や態度は一貫性が必要
→PWSの人は、一貫性のない言動に敏感です。前言ったことと違うとなると不信感をいだきます。記憶も良いので、ちゃんと覚えています。いったん生じた誤解は後を引きます。
→同じ問題には効果のあった方法と同じ一貫したやり方を用いることも大事です。1対1の決まったやり方を続け、繰り返さないと身につきにくいのです。それに、自分で対処できるまでには相当な時間がかかるので、親がそのつど一緒にやらないと、同じ問題が反復したりします。自立を急ぐより、不安や混乱を防ぐことが第一です。不安や混乱は、どこかで問題行動として噴出します。
- 本人の自己決定を尊重して
→自分で考え判断させてから話し合い、そこで正しいこと、適切なことを教えていくほうが、受け入れやすくなりまし、本人に合うやり方に到達しやすくなります。
→議論をすると論点がすれ違いますし、意地が出てきたり、本人の都合のよいことだけが入っていって後からそれを主張されたり、信頼関係が損なわれたり、いいことはないので、議論に行かないようにすることが一番です。PWSの人達の認知の特性を知って関わることが、問題を減らします。
- 薬が必要な時には使用を考えて
→薬に対する注意(成長ホルモン剤、性ホルモン剤、食欲抑制剤、向精神薬など)は、
- 薬は必要なときは適切に正しく使いましょう。
- 薬は本人のつらさを軽減し、生活の質(QOL)を向上させるために使うのです。
- 薬は、恐れても、頼ってもよくありません。薬で解決できること、できないことを主治医にきちんと教えてもらいましょう。
- 薬の副作用について知り、症状があれば、主治医に連絡して正しく対応しましょう。
- 薬の効果・副作用は人によって違いますが、特にPWSの人は薬が効きすぎることがあるので注意が必要です。麻酔も効きすぎることがあります。
- アロマテラピーや漢方薬も副作用のある薬です。それに医師からもらう薬と相互作用がおこることがありますので、使用している場合は医師に伝えてください。麻酔薬を使うときは、医師に伝えて中断してください。
- 薬の役割はあくまで補助的です。毎日の規則正しい生活、適切な全身運動、正しい栄養摂取などが第一で、それを忘れては薬の効果も歪みます(成長ホルモン剤も生活が不規則で運動がされないと効果が削減されます)。
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PWS 支援国際組織 IPWSO(国際プラダー・ウィリー症候群支援組織)について
IPWSOは、各国のPWSA(PWS協会)を窓口として、親1名と専門家1名から成る各国からの代表委員で運営され、世界中のPWSの人と家族のために、何が最良か、何をすべきかを検討し、国際会議を行い、互いに交流し、役に立つ情報を提供することで、各国の活動を支援する組織です
日本では、このPWSA Japanが、PWSの方々やご家族とIPWSOとの橋渡しをしています。
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●質疑
(田中医師から)
Q:管理・マネージメントに対して保護の考え方についてなるほど、と思った。
保護してあげるという具体的な事例は?
A:この考えはアメリカのPWS協会から教わった。アメリカでは前から冷蔵庫に鍵をかけているが、日本では抵抗が強い。でもこれは、「誘惑から保護している」という考えからきているようである。またひとりで買い物に行かせることも、誘惑の中に送ることになるので、行かせないほうがいいと言われている。(「自立」の意味も改めて考える必要がある)
(30歳男子の父親)
165センチ、130キロ
インシュリン使用 食生活が一番問題となっている。食事制限がむずかしい。
1600キロカロリーといわれているが、親自身が少なく貧相に感じる。
手足が小さい。
週2回か3回プールで泳いでいる。
作業をやるのに気に入る時と要らない時のむらがある。
居眠りが多くなってきている。
小さい時に睾丸手術したが、片方降りていない。
医師のネットワークができることを希望する。
協会を中心に活動をしていきたいと思っている。
(長谷川医師)
PWSの大人が家庭だけでダイエットするのは難しいと思う。
むしろグループホームのほうがけじめがつけられるのではないかと。
一般の大人でも1日1500カロリーで充分といわれているので、1600カロリーならば少ないとはいえない(165cmで減量するには1300カロリーになる)。見た目満足できる食事を工夫することは可能である。
気分のむらは、まだ脳が未熟なためであろうと思う。成熟できるようにするための対応が必要であろう。
性ホルモン治療もすでになされていて、必要なことはよくわかるが、行動の自己コントロールができていないと、特に男性ホルモンは問題を増幅させる可能性がある。
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ごあいさつ(庄司英子)
日本PWS協会は昨6月に設立しました。会員、賛助会員、多くのボランティアさんのご協力を得て心からの感謝をしております。
日本の協会は「国際プラダー・ウィリー症候群支援組織」(IPWSO)に加盟しました。
昨秋、IPWSOから突然3名の来日は嬉しい驚きでした。頂いた資料は、ただいま翻訳中です。PWSについての悩みは世界共通という安心感と連帯感を改めて感じ、さすが、外国の対応の柔軟さと機知に富んだ工夫に学ぶことあり!
私たちは「子どもの笑顔が消えないように」ということを望んでおります。
協会の会則にも謳っていますように、「PWSのひとたちが笑顔でいきいきとした人生を送れるために」という目的で活動しています。
現在の学校教育では、「特別支援教育」により個々のニーズを把握し、教育的支援がなされる方針が出され、私の子どもの時代には考えられなかった大変有り難いことです。日本では規制緩和が加速し、高齢者のケアセンターのみならず、知的障害者の作業所にまで利益が優先されているそうです。今かろうじて残っているのは、入所施設だとか。日本で一番遅れているのは福祉と言い切っている人もいます。
2月1日付けの新聞「障害児支援」と言うシリーズのなかで埼玉県の校長先生が「子どもは自然体。障害が正しく理解されないことが一番の障害だとわかった」と。以前、「PWSへの対応は本当に難しい。しかし、講演会で学んだことで他の障がいを持つ人にも応用がききます」との感想文を頂きました。
PWSの人たちが本来持っている「良き特性」を生かしていきたいと思います。
どの様な障がいであっても、また、どんなに重度と云われる人でもプライドを傷つけることは許されないことです。
子どもにとって一番は「親の愛情」です。プラス、医療、教育、福祉などと連携し、チーム体制を作り、支援を頂き「対応の仕方の工夫」「相互の信頼関係」「健康・運動・精神面の正しいマネジメント(=保護)」を構築していくことが大切なのです。また、本人が安心できる「居場所の確保」は必要です! お母さん一人が、また、先生一人が頑張っても虚しく空回りします。 お互い助けあい支え合うことです。
2001年から毎年講演会を開催し沢山の講師をお招きし、親も周囲も多くのことを学び、それらを内部にとどめることなく、広く外部にも情報を発信してきたことが、今では、沢山の方からの支援と協力を頂くようになったことは大変有り難く思っております。
今回で大きなセミナーなどは一応終了し、次年度からは「PWSA Japan新潟」では、有志・支援者などが集まり、先生方や関連専門職、現場の最前線にいる人との専門的学びを通し、引き続き地道に活動し、且つ有意義で楽しく小さな『勉強会』をしていく予定です。
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