日本プラダー・ウィリー症候群協会 Prader-Willi Syndrome Association Japan (PWSA Japan)

本人・家族・関連専門職をはじめとするさまざまな支援者とともに、生活の質の向上、社会参加の推進、情報収集・発信、国際的交流・支援などに取り組みます。

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医師からのメッセージ

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1.プラダー・ウィリー症候群(PWS)について、基本的なこと

 PWSの子をもつ親ごさんたちの多くは、わが子の将来に対して漠然とした不安をもっておられます。不安をできるだけ減らし、将来に希望がいだけるような支援をしていきたいものです。そのためには、まず、「PWSについて正しく理解し、適切にかかわる」ことが必要です。 成人になっても、もうこの年ではと諦めてはなりません。人間ですから、年齢がどうであれ成長していきますし、どんな問題も解決は可能です。そう、いつでも取り戻しはきくのです。

 他の疾患、たとえばダウン症や自閉症でも、以前はまったく理解されていなくて、たいへんだ、どうしていいかわからないからと諦められていました。でも、適切な対応のしかたがわかってきたので、今では困ることもほとんどなくなりました。PWSもきっとそうなると思います。

 PWSは、多彩な症状を示す、先天性の(生まれる前に原因があった)疾患で、生まれてくる男児と女児は、ほぼ同数です。出生率は 1/約1万〜1万5000人ですが、これはダウン症候群の約1/10ですから、先天性の疾患として稀とはいえません。

 PWSの症状に個人差はありますが、共通の症状としては、低身長、小さい手足、性腺発達不全、精神運動発達遅滞、軽度から中等度の知的障害、認知面や情緒面の発達障害、食物への過剰な関心と食欲亢進、エネルギー代謝の異常、肥満傾向、嘔吐しにくさ、唾液量の低下と虫歯になりやすいこと、皮膚のかきむしりなどです。ただし、症状の程度は人によって差違があります。

 そのほか、人によっては、呼吸障害、睡眠パターンの異常、けいれん発作、斜視、側彎症などの合併症がみられたり、痛みや暑さ寒さなどが感じにくかったり、薬が効きすぎることもあります。また、肥満が高度になって糖尿病や心血管障害を併発する人もいます。

 特に、出生直後から乳児期は、かなりの筋緊張低下(低緊張)の状態で、活動性が低く、体温調節不全や哺乳障害がみられ、栄養失調のおそれすらあります。2−3歳頃になれば、低緊張はしだいに改善し、活動性も向上してきます。問題となる症状の多くは脳の「間脳下垂体部位」の機能不全にあるといわれていますが、複数の遺伝子が関与しているため、単一の病因でこの疾患の全体像を説明することはできず、世界中で研究が続けられています。

 PWSは、父親由来の15番染色体長腕にある、隣接した複数遺伝子群の機能が欠如したことで起こります。これは自然な生物現象のひとつであって、親の責任はまったくありません。この遺伝子機能欠如は、15番染色体の部分欠失によって生じることが多いのですが(約70%)、染色体の欠失がなくても、15番染色体が2本(1対)とも母親だけに由来した「片親性ダイソミー(UPD)」型もあります(約25%)。15番染色体のこの部位では、通常、母親由来の遺伝子は不活化し、父親由来の遺伝子だけが働いています。この現象を刷り込み(インプリンティング)といって、それを規定する特定の遺伝子(刷り込みセンター)があります。そのほか、稀ですが、刷り込みセンターの異常でPWSになることもあります(刷り込み変異、5%以下)。刷り込み変異の一部を除いて遺伝性はありませんが、遺伝子の機能が原因になっているためPWSは「遺伝性疾患」に含まれます。最近では、DNA検査でPWSの確定診断ができるようになったため、新生児や乳児で診断されることが多くなっています。

 遺伝性疾患だからどうしようもない、というのは大きな誤りです。遺伝子はどうすることもできませんが、周囲のかかわりや、医療・養育・教育・社環境を適したものにすることで、障害は最低限におさえられますし、生活の質(QOL)を向上させることができます。日本プラダー・ウィリー症候群協会はそれをめざしています。

 いま成人になられた方々は、PWSのことが殆どわかっていなかった時代に小児期をおくられています。親ごさんたちは、有益な情報のない中で、大変な思いと苦労をされてきたことでしょう。おまけに医療から見放され、絶望感をいだかれた方も少なくないと思います。医療者の一員として、大変申しわけなかったという気持でいっぱいです。それに、周囲の人からは、お母さんがんばってと言われ、孤独の中で、がんばり続け、がんばればがんばるほど泥沼に入っていき、ついには息切れして諦めてしまってはいないでしょうか。成人になったらどうしようもない、と思われている方は多いかもしれませんが、けっしてそんなことはありません。そのような状態を乗りこえた方も大勢おられます。

 そのような有益な情報のなかった時代は終わりました。それに、早期診断が可能となった今、診断だけされて養育やかかわりのしかたについての情報が欠落することは許されません。しかし、PWSの経験があまりない医療、療育、教育などの専門家にとって正しい情報を得る機会は限られています。情報はたくさんあっても、それが適切かどうかの判断は容易ではないでしょう。そのため、日本プラダー・ウィリー症候群協会では、できるだけお役に立てるような情報を提供していきたいと思っています。

 PWSの人たちも一人ひとり違っています。それはPWSの症状に個体差があるということ以上に、人間としての個人差が根底にあるためなのです。両親から受け継いだ遺伝子の違い、生育環境の違いなど、さまざまなことが関係して個性をつくりあげているのです。また、PWSの影響以外は、育っていく過程もほかの子たちと同じです。そのため、子育ても病気の予防も、基本的には一般の子と変わらないのです。

 同時に、PWSの影響もしっかり理解しておく必要があります。 彼らの得意なところと苦手なところを充分理解し、適切なかかわりをして、必要があれば治療したり、予防したりしていくことで、生活の質(QOL)を向上させていくことができます。PWSをもつ人たちの一番の問題は、一般の子とあまり変わらないと思われがちなところです。そのため、疾患の影響なのに、行儀が悪いとか、親のしつけが悪いなどと思われてしまうことです。もしかしたらPWSは親にも理解しにくい疾患なのかもしれません。でも、理解されないことで、PWSの人たちもひそかに苦しんでいると思われます。

 ある染色体異常をもつ青年のお母さんが「染色体異常などの診断がなされたということは、少し丁寧に育てましょうという意味ですね」と言っておられました。障害の有無に関係なく、丁寧な子育ては大切なことですが、PWSの子にはかなり丁寧なかかわりが必要でしょう。

(文責 長谷川知子 … 自身の経験や医学文献、親ごさんたちからの情報、それにPWSA-USAのMedical Alert を参考にしています)

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