日本プラダー・ウィリー症候群協会 Prader-Willi Syndrome Association Japan (PWSA Japan)

本人・家族・関連専門職をはじめとするさまざまな支援者とともに、生活の質の向上、社会参加の推進、情報収集・発信、国際的交流・支援などに取り組みます。


お問い合わせ

 

講演

講演1:IPWSOの活動は「Open the door(ドアを開く)」こと

  IPWSO会長 パム・アイゼンさん

パムさんから

「コンニチワ、アリガトゴザイマス」
このような会を催してくださり、本当に嬉しく思います。ご挨拶いただいたIPWSO代表委員、PWSA Japanの代表の方とすべての方々に感謝いたします。また、全世界のファイザー社にも感謝しております。


講演のまとめ

 IPWSOの活動は「ドアを開く」こと。それは教育へのドア、世界に対してのドア――、そして日本にドアを開くこともその一つである。

 我々の使命は、PWSの皆さんのQOL(生活の質)を改善していくための支援であり、本人、親、専門家が集まったグローバルファミリーたること。IPWSOには国際BOARD(役員会)と呼ばれる試みがあり、役員はそれぞれの大陸から選出されている。BOARDメンバーには親だけでなく専門家にも入ってもらっている。活動には、両親と専門家の良好な関係が必要なのだ。そして、最も大切なことは認識を広めるための啓発を行うこと。子どもがより良い生活を送れるよう、早い段階での診断・治療を行うことである。

 現在、IPWSOには62カ国が加盟(チェコが一番新しい)している。世界を巻き込んだ活動によって、規模も急速に大きくなっている。62カ国の加盟国のうち12カ国にPWSをもつ人たちのグループホームがある。しかし、国内に協会のある国もあればない国もある(加盟国の26の国に協会がない)。現在11000家族がIPWSOに参加しているが、どの国でもサービスを受けられるように情報を共有していくことをめざしたい。

 PWSに対して政府からの支援のまったくない国や、GH治療に支援のない国もある。特に成人に対するGHの補助をしている国は少ない。まだまだIPWSOの業務は山積みだが、すでにさまざまな支援も行っている。

 イタリアにあるIPWSOのオフィスには、ほかで診断がつかない場合の検査を行う研究室がある。そこでは、検査ができない国に対して無料で検査を行っている。最近、フランスの学会でブースを出したとき診断のお手伝いができることを話したら、検査ができない状況におかれている途上国の多くの医師たちが喜んでいた。あるヨーロッパの先生は10人の患者を抱えているがどうすることもできないと言っていた。

 また、IPWSOのホームページは、いろいろな言語で見られ、自分の国や他の国の情報が見られるようになっている。自分の言語で見られることが重要。日本語でも提供できるような協力をお願いしたいと思う。情報については、冊子でも提供している。一般への認識を高めるもの、医療分野の認識を高めるものがあり、専門家の書いた本をいろいろな言語に翻訳し世界に出している。この冊子はすべてボランティアによって作られている。

 医学面での認識を高める活動も進めている。新しい試みとして、心理学者向けのコースを開催した。スペイン語圏では2回ほど開催したと思う。今後、英語や他の言語で開催したいと考えている。

 IPWSOの他のサービスには、「生活支援」「作業所や作業療法」「リハビリプログラム」「法的支援」などがある。法的支援としては、カナダで食べ物を盗んで捕まった青年の連絡を受け支援したことがある。さまざまな国に赴いて、国、地域レベルでの学会や新しい協会設立の支援もしている。

 私たちIPWSOの国際的な会議は3年に1度行っており、総会では親の代表がそれぞれの国に関して話す。この国際会議でもう一つの重要な点は、科学者のインターナショナルフォーラムも開催している事である。いろいろな分野の専門家がPWSについて話をすることが大切なのだ。

 最後に。スペインの会議でひとりの青年が、自分がPWSであることについてどう思うかを話してくれた。そのとき私は、彼らは本当に特別な人たちなのだ、いろいろな可能性を持っているのだと感じた。私たちに必要なのは、彼らの可能性に目を向けていくことである。

講演2:台湾におけるPWS診断と治療

  IPWSOアジア地区役員、台湾PWS協会董事、小児科臨床遺伝医 シュアン・ペイ・リン医師

リン先生から

「コンニチワ、スコシ ニホンゴ」しゃべることができます。もっと話せればと思うのですが。この度ご招待いただきましたことは嬉しく、また名誉に思っております。
皆様とお話ができることもとても嬉しく、こんなに多くの方が来てくださったことに感謝いたします。IPWSOのオープンドア精神はとても良いことと思います。それによって皆さまとお近づきになることができると思います。私は、台湾での患者さんのマネージメントの経験についてお話しいたします。


講演のまとめ

 台湾でのPWS児・者の年齢のピークは2つに分かれており、1つはとても若い人たち、もう1つは若い大人たちと呼ばれる人たちである。台湾でPWS診断のための方策を作ったのが2000年。GHの治療経験は2年に満たない。5年前まではPWSの診断がなかなかつかない状況だった。

 台湾では、すべての医師が対処できるよう、検体サンプルを1つのセンターに送って診断できるようにした。経済的で効果のある3つの段階の診断方法をとっている。まず第1段階で、メチル化PCRを使ってスクリーニングを行い、第2段階で染色体の欠失があるかを見る。欠失がないときは第3段階として、マイクロセルラー分析を行いUPD(片親性ダイソミー)を調べる。これで95%以上の診断がつく。ただし、すり込み変異型は特定できない。

 実際の診断の流れとしては、発達遅延や知的障害があるなどの臨床症状がある場合、小児神経科の医師か遺伝学専門の医師に紹介され、PWSが疑われると、診断センターに血液検体が送られる。第1段階、第2段階は台湾に11ある特定センターでも行なわれる。診断センターでは、第3段階の検査を行っている。

 検査はすべて無料で行っている。これが動機づけとなり、現在130名以上が検査を受けた。台湾政府から希少疾患に対してのスクリーニングへの補助が出るようになる2000年以前の従来の染色体を使った検査では、41名中4名しか生後3ヶ月前に診断されなかったのが、2000年以降は半分以上の患者の診断が生後3ヶ月でつくようになった。

 台湾では、すべての血液を調べる際、メチル化PCRを使い、診断センターには検体と一緒に出生暦、臨床症状、検査値、分子遺伝学的所見を送っている。患者はいろいろで、他の筋緊張低下症の人もいるため、DNA検査が必要になる。シンプルな形で診断をすることにより、体に負担のかかる検査をしなくてすんでいる。この3段階のスクリーニングが良く機能しているのは、台湾が小規模だからかもしれない。人口2300万くらいの規模の場合は、良い方法なのかもしれない。

 台湾の4つの医療センターでは70人のPWS患者を診ている。年齢分布は1ヶ月から22歳。性別は男性39名女性31名とほぼ同数。出生時の平均体重は2588gで低身長、多くの方が肥満である。またすべての患者に筋緊張低下、授乳に関しての問題、胎児期の活動低下、性機能の低下が見られた。台湾でのPWSの遺伝型の比率は、87%が染色体の欠失、10%がUPD(片親性ダイソミー)、4%が刷り込み変異で、世界の状況とは違っていた。原因は、診断がついていないことからくるのか、人種差なのか、台湾では母親の年齢が若いのでそのためなのか、まだわからない。さらにいろいろいな調査、検査をする必要があると思われる。これまでに52名以上の遺伝学的解析が完了している。

 次にGH治療について。昨年、台湾の保険プログラムにPWSが障害として受け入れられ、GHを投薬できるようになった。その際、多くの専門家の中でも意見の対立があり、GHに対していろいろな討論がなされた。GHの投与を肯定的に考えているのは遺伝の医師だけで、他の科の医師は治療に対し心配していた。IPWSOでは2年前、パムさんとジャナリーさんがたくさんの情報を持って台湾全土をまわり、台湾政府に働きかけてくれた。さらに学術会議や親たちの会議を開いてくれた。そのおかげで、その後1年経たずに保険局でGH投与が認められ、補助されることになった。2003年から23名の患者さんにGHが投与されているが、政府からの補助金は2004年から出ている。

 現在70名中19人がGHの投与を受けている。以前はGH投与の補助への基準が厳しく、GH欠損がある場合に限られた。現在は、PWSの人たちすべてにドアが開かれ、補助金が出るようになった。GHの効果としては、投与前と投与後の結果を見ると、投与後は大いに状況はよくなってきている。本人自身も自信が出てきて家族もハッピーになっている。

 台湾にもPWS協会ができた。遺伝学の専門家として知らなければいけないことは、薬のことだけではなく両親や本人が何を必要としているかだ。多くのボランティアの方、遺伝学以外の専門家の協力、疾病協会、政府の支援もあって、PWSの人たちがより健康で幸せになっていることに感謝したい。しかし、PWSでわかっていることはまだ氷山の一角。研究しなければならないことはたくさんある。さまざまな研究、努力をすることで患者さんの健康、尊厳、その他のことも向上していかなければいけない。

講演3:PWSで注意すべき医療面での危機状態

  PWSA USAエグゼクティブ・ディレクター ジャナリー ハイネマンさん

ジャナリーさんから

「コンニチワ」 私は、医療的な危機の予防と処置についてお話したいと思います。


講演のまとめ

 私は、医師ではないが25年間医療にかかわり157の危機例を経験している。残念なことに、救急の時に医師は症候群を真剣に捉えないことが多い。次にPWS児・者における、医療面で注意すべき点をいくつか述べる。

  • アメリカには3000人を超えるPWS協会の会員がいる。その中で最も多い問題とされているのが、肥満を原因とする死亡である。BMI40以上は病的な肥満と考える。1238家族から回答を得たデータベース(表参照)では、82%がオーバーウェイト、26%は病的肥満、1人はBMIが92であった。肥満関連の死亡例には、呼吸困難、循環器(心臓の合併症)、糖尿病、肥満関連の感染症、血栓(による血管閉塞)などがある。子どもたちをスリムにしておくことが重要である。
    ※BMIとは:ボディ・マス・インデックス(Body Mass Index)の略。「体重(kg)÷身長(m)÷身長(m)」で算出される体格指数のことで、肥満度を測るための国際的な指標。医学的に最も有疾患率が低い数値として「22」を標準としている。
  • スリムであっても問題がある。胃が小さいためすぐいっぱいになるが、食欲はあるため食べ過ぎ、食べ物が消化されきれず胃の中で腐ってしまい胃に穴があくことがある。食後でも空腹感があり、食べたくなる。また、痛みに鈍感なため、普通なら食べ過ぎて痛みがあるような状況でも食べてしまうのだ。これで、休暇中に亡くなった4人の若者がいた。休みでみんなが見てくれると思っていたが、結局誰も見ていなかったということもある。食べ物を見つけるのも早い、お金を見つけるのも早いということを知っておきたい。
  • 体重とは関係のない死亡例としては、窒息死がある。163人の子どもと大人の患者さん11人を調べたところ、食べ物を詰まらせて窒息死している。食べると怒られるため、パッととって急いで飲み込み詰まらせてしまうことがあるのだ。窒息に対する方法を学んでおく必要があるだろう。
    ※ハイムリック法… PWSA Japan註:下記のURLに掲載あり
    http://www.city.sayama.saitama.jp/kakuka/shobo/bu/teate/14jouhukubu/jouhukubu.html
  • 呼吸障害の問題もある。無呼吸に関しては、肥満性、中枢神経の麻痺、人によっては気道が狭いなどの理由がある。PWSの人には、睡眠時の無呼吸の調査も必要。さまざまな調査の結果、対処法としてお伝えしていることは、アデノイドや扁桃を切除することである。
  • 麻酔の使い方にも注意が必要。必ず麻酔科の医師が注意をして、麻酔を使うべきである。例えば、歯を抜く時に使う麻酔にも注意が必要。歯を抜いた後に死亡した例もある。術後すぐに帰宅し気道が狭くなり、問題になったのだ。手術中だけではなく、手術後の監視も重要である。
  • 熱が出ない・痛みを感じにくい・嘔吐しない・食欲がないことがない、という特徴がある。病気の判断がつきにくいので体調の変化に気をつける。
  • 睡眠の問題もある。(長谷川註:急激で深い入眠や睡眠時無呼吸が問題になるので、睡眠障害や無呼吸の有無を調べ、環境の改善、睡眠時酸素吸入、肥満の治療、薬物療法など適切な対処を行うこと)
  • 喘息、肺炎のときも、通常の場合よりも慎重に診たほうがいい。
  • 消化器系について。小さい子は心配しなくてもいいが、10代中ごろからは注意したほうがいい。筋力の弱さから便秘の問題が多い。
  • 低体温にも注意が必要である。気温の低いところなどでは、体温管理に特に注意する。
  • 水を飲まないことが多いが、多量に飲み水中毒になることもある。その結果、電解質がアンバランスになり深刻なことになることもある。
  • 静脈を捜すのが難しい。(長谷川註:最初から、熟練した医師・看護師にしてもらったほうがいい)
  • 乳児期などで挿管をする必要がある場合、気管が狭く粘液がネバネバしていて難しくなっているので医師には注意してもらう。
  • 痣ができやすい体質。かいて火傷をしたように見えることもある。かきむしりなど、自分で自分を傷つけることもある。これらは親の虐待を疑われる場合も多いので、アメリカでは法的なことを書いたカードを子どもたちに持たせている。また、(アメリカでは)家の中から逃げ出すこと、店で食べ物を盗んでしまうことも放置とみなされ虐待になるので要注意とされている。

[表] 1238家族からの回答(年齢別の有疾患率)

  骨 折 骨粗しょう症 側弯・後弯 股関節異常 突然眠ったようになる
(脱力発作)
糖尿病
0-5歳 3% 0% 16% 6-7% 5% 0%
6-18歳 13% - 35% 9% 10%
18歳以上 23% 22% 46% 13% 21%
  • 年 齢:0〜5歳301名(30%) 6〜18歳459名 18歳以上478名
  • 分 類:父親由来欠失41% UPD(母親の片親性のダイソミー)21% 刷り込み異常2%
  •      プラダー・ウィリー症候群様2% 転座2%
  •      不明(医師に聞かなかったもしくは聞いたが忘れた)31%
  • 男女比:女性51% 男性49%
  • 成長ホルモンを受けたことがある、または現在受けている人:
  •      0〜5歳63%、6〜18歳65%、18歳以上26%

PWSA USA情報より抜粋

 大切なことは、協会のメンバーになりグループの人たちから医学的な情報を集めることである。アメリカではPWS協会を28年運営し、その間パンフレットを18出している。最近出したメディカル エマジェンシーの冊子は常にバッグに入れたり、車においておいたり、学校の先生や緊急の医師に持っていてもらい、PWSの注意点をわかってもらうようにしている。

 私の息子は19年前からGH治療を受けている。現在はとてもスリムでハッピーだ。GHのおかげで身長も伸びた。昔は肥満だったが、食べ物にも鍵をかけて管理し、9歳からスリムになっている。彼がハッピーなのは、食べ物や行動のマネージメント、抗精神薬の投与を受けているからである。抗精神薬の効果に関しては、個人差があり、状況によっても異なるので、さまざまな事例の調査を進めている。行動問題のマネージメントができれば、子どももハッピーになり親もハッピーになるだろう。

 両親への教育プログラムも行っている。新生児が生まれた両親、5歳までの子どもを抱える両親に対して教育資材を渡し、子育てをした人からの支援で両親を支える活動をしている。成長してから変えていくことは難しくなるので、小さい時に関わって予防しておくことが大事である。また、医師が献身的に関わっていくことが大切で、先生方の支援がなければ我々のグループは成り立っていかない。一緒に取り組んでいけば、PWSの世界や状況を変えられると思う。

講演4:日本におけるGH治療状況

  独協医科大学越谷病院小児科教授 永井敏郎医師

講演のまとめ

アメリカでのPWS児・者に対する支援グループは1つといわれているが、日本では私の知っているかぎりでいうと4つある。PWSA Japanは新潟の有志を中心に設立され、国際的・社会的な活動をはじめたところで、今回の主催者でもある。

 日本では、2001年1月からGH使用を開始しているが適応が問題になって混乱を招いている。適応は低身長(正常な人の一番前の人よりも小さい人)に限られPWS患者の約半分のみが適応となる。ヨーロッパでは低身長ほかに体組成の改善目的の適応も認められている。日本では低身長だけなので身長が止まると使用できなくなる。

 使用禁忌は強度肥満、重度呼吸障害の患者で、一番の問題は強度肥満や重度呼吸障害の定義がはっきりしない点である。臨床の現場ではちょっといびきがあると呼吸障害があるので使えないということになる。呼吸機能を調べるのはアメリカではすぐできるが日本では簡単には調べられない。そのため使用できる人も使用できずにいるのが現状である。

 日本では現在200人がGHを使用しており、一人が使用中に死亡している。
 我々の施設でフォロー中の72人の患者の年齢分布は、20歳以下が多いが1番年齢の高い人は49歳になる。小さい子には成長ホルモンなどの治療を行うが、大人の人に対する臨床サービスとしては精神的ケアやお母さんの話を聴くなどになる。性ホルモンの補充は性格的な問題や筋力の問題を考えると不足しているから補充すべきだと思う。

 72人のうち41人がGHを使用している、もしくは過去に使用していた。0歳から10歳の患者さんでもGH使用していない方は、身長が大きくて使用できない患者さんである。低身長が顕著になるまで待ってなくてはいけない。待っているうちに太ってしまう。体組成が悪くなる。この辺の患者さんを救うために早い時期に使えるように低身長だけでなく使用できるようにしていくことが、次の課題である。

 GHを開始する時期は何歳ごろが良いかというと、世界的なコンセンサスはない。私の41名の患者さんでは2歳以下で8名、4歳までいれると17名が使用している。早く使用している一番の理由は身長がほしいだけではない。身長をのばすだけなら9歳や10歳からでもかせげる。筋緊張が弱いため四肢はバタバタするのに首や腰が座らない、歩きそうで歩かないなど、GHを使用し早く筋力をつけてあげる。年齢によりGHの適応目的が全然違う。世界の動きは、可能な限り早期に開始し可能な限り遅くまで使用するようになっている。今、日本が世界で一番早く診断がついていると思う。ほとんどが新生児期に診断がついている。何歳でGHを使用したらよいかエビデンスがない。早く使いすぎると側弯になるのではとの心配の声もある。使えば元気になる力が付くと親も医師も言うが科学的根拠をそえたレポートがない。これをきちんとやらないといけない。

 トータルケアとして、ダイエット・エクササイズ・GH補充・性ホルモン補充・精神的ケアがある。性ホルモンの使用は、筋力をつける、精神的自信を持つ、などにも効果がある。

 GHの問題点としては、3つの注意点がある。糖質代謝、呼吸機能、側弯である。

 糖質代謝の問題:GHを使うと糖尿病になると心配されていたが、データでは筋力が上がり、活動性が増え、血糖が下がるという結果が出ているのでクリアされている。

 呼吸機能の問題:GHは、中枢性の呼吸障害には有効で、酸素や炭酸ガスに対する感受性が改善するとするデータがある。問題はアデノイドや扁桃腺が大きくなるため閉塞性呼吸障害が強くなるとする危惧。耳鼻科にコンサルトする時は、アデノイドや扁桃腺摘出に関して、PWS患者では、筋力が弱い、首が短い、あごが小さいなどの問題点を良く説明し手術適応基準を下げてもらい早くとる方向も考える。閉塞性の窒息だけ気をつければ良い。

 側弯の問題:問題は側弯でここをきっちりやらないといけない。われわれの患者72人のうち48%に側弯が見られる。その中でも前弯・後弯の複数の異常のあるタイプは進行する。どんな人が進行するか見えているのでそんなに怖がらなくてよい。

 世界中が心配しているのは糖質代謝、呼吸器、側弯なので、この3つだけを注意してやってもらえばよいと思う。

質疑応答

Q: グループホームの利用者が2、3本一度に抜歯し帰宅後すぐに食事をしている。歯科医師にPWSの事を理解してもらえるようなパンフレットがありますか。(PWSケアに関係する職業の方)
A: メディカルアラートが翻訳されれば役に立つと思う。麻酔の関係で死亡した例を調べる事はできる。お子さんの安全に対して大切なことは冊子に書いてあるので翻訳して使うと良い。アメリカでも一般的には抜歯後に入院する事はないが、PWSの時には入院させてもらうよう説明している。
(PWSA Japanから:協会の仕事として翻訳をして使用できるようにしたいと思います)

Q: 今は静かで世話をしやすいが、今後どのようなことに気を付けて育児をしたらよいですか。(PWSの子どもを持つ母親)
A: スリムにしておくことが大切。食べ物に関しては、祖父母や叔父叔母、学校の先生にも責任を持つよう説明しておく。親だけが注意していてもコントロールができないし親だけが悪者にされてしまう。祖父母は食べ物を与える事が愛情だと思っていて死に繋がるとは思わない。食べ物に興味を示しだしたら、すぐに量をコントロールしたほうが良い。1年好きなだけ食べさせて後からコントロールしようとしても難しい。早めにコントロールすることが大切。
昔は4、5歳でたくさん食べたいという子が多かったが、今は早い段階で教育することが上手くいっているのか、GHの影響なのか、それとも両方なのかわからないが9歳や10歳になっても欲しがらない子が多い。
GHを受けている子の方がエネルギーがあり、活動がたくさんでき食べ物を探すことにエネルギーを使わなくて済んでいるように思う。
行動のマネージメントという意味では抗精神病薬の調査も行っている。息子の場合(33歳の息子さんがPWS)、低用量の抗精神病薬を3種類組み合わせうまくいっている高用量の物を1種類使用するより低用量の物を組み合わせたほうがうまくいくように思う。しかし、人によって違うのでその調査を行っている。行動管理は大きくなってからは本当に難しい。小さいころから行っていくことが大事。両親によっては、抗精神病薬を使用することを遠慮する人もいるが、食欲抑制のための薬は飲んでいる。抗精神病薬は心の傷や痛みを治すものだとから問題ないと考えている。

Q: 気温が下がると眠くなるという話があったが、気温が低くなくても気が遠くなっているようなことが時々ある。これはPWSに関係がありますか。(PWSの子どもを持つ母親)
A: PWSの子どもは良く眠っている。学校で居眠りをして注意される事もある。学校の先生には手紙を書いて理解してもらっている。一般的に見られる問題といえる。

Q: 小さい頃から食に関しての管理をしていくとの事ですが、大人になっても食欲のコントロールができない人もいますか。(PWSケアに関係する職業の方)
A: 食べ物が欲しいと、がっついてしまったり、欲しくて癇癪を起こしたり、盗み食いをしてしまうこともある。しかし、小さいころからコントロールすることによって、食べ物はコントロールされるものだと頭に植え付けられる。一人一人違うのでコントロールしてもできない人もいれば、小さいころから全然問題のない人もいる。BOARDメンバーの医師が染色体の調査を行い、欠失の多い人をT型、少ない人をU型と分けた。U型の人のほうが行動上の問題が多いという結果が出た。

Q: 大人になっても本人でなく、周りの人が食のコントロールしなくてはいけないですか。(PWSケアに関係する職業の方)
A: 食べものについては、「周りが保護してあげる」事が大切。目に入らないようにしてあげることも学校など周りの責任。もし盗んでも、盗んだ子が悪いのではなくて、目に付くところに置いたこと、ロックしていなかった私たちがいけない。学校や作業所で管理していくことが大切。教師用のマニュアルもあるので読んでもらうと参考になると思う。PWSの人に、食欲を完全にコントロールしなさいと言っても無理。「食の安全」と呼んでいるが、目に付かないようにして守ってあげることが大事。
PWSA Japanも大きくなっているので、子供の年齢に分けたグループで話をすると良い。年齢によって状況なども違う。経験を共有するセッションでは分かれた方が良い。
しかし、1つの団体としては、強くあったほうが良い。強力な団体として政府とも闘えるし、子供たちの為のサービスやパンフレット作成もできて、援助なども受けられる。

終わりに

IPWSO親の委員 松本和恵

 今日はお忙しい中、皆さんお越しいただきありがとうございます。
 IPWSO親の代表をさせていただいております松本です。神戸から参りました。現在、9歳のPWSの息子を持っています。

 長谷川先生には息子が3ヶ月のときにPWSと診断していただきまして、そのときから時々お世話になっておりました。そのご縁で、昨年ニュージーランドで行われたPWSの国際会議にも誘っていただきました。参加するまではPWSの息子を育てなければならないことにとてもプレッシャーを感じ、ガチガチの子育てだったと思います。参加して、さまざまな国の方々が同じPWSの子供を持ち、同じ悩みを持ち、同じように感じていること、隣の町や隣の県だけではなく全世界の親たちがみんな同じ思いをしていると感じたことで、肩の力がぬけ軽くなりました。

 今回庄司さんを会長にPWSA Japanが設立されました。これは日本のPWSを取り巻く湖面に一石を投じたことになります。小さな波紋は徐々に大きな波紋となって広がっていきます。このようにこの協会が少しずつ大きくなってくれたらよいと思いますが、ただ、大きいばかりではなく質の高い協会にしていかなければなりません。私も微力ながら協力していきたいと思います。

 パムさん、ジャナリーさん、リン先生、今回は日本に立ち寄っていただきありがとうございました。今後ともご協力をお願いします。

 本日は皆さん本当にありがとうございました。

前<- 3/5 ->次

Copyright© Prader-Willi Syndrome Association Japan All rights reserved.